洋食器にかかわる基礎知識 ヨーロッパの美術様式

シノワズリ|中国“風”であってパクリではない、東洋への憧れが生んだ美術様式(1560年頃~)

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シノワズリ(中国趣味)とは、中国製品の“コピー”ではなく、あくまでも中国“風”のものということで、西洋人の東洋の文化へのあこがれから生まれた西と東の美術のコラボレーションなのです。

中国“風”であってパクリではない

中国人がコピーした有名キャラクターや東京オリンピックのエンブレムの盗作問題など、“パクリ”はとかく大きな問題になっています。

しかしなぜ“パクリ”、いわゆる複製やコピーがこれほど大きな問題になるのでしょうか?

それは皆さんご承知の通り、商品や美術品、小説などには著作権が存在するからです。

しかしこの「作者の権利を守る」という著作権の重要性が認められたのは、そう昔のことではありません。特に美術の世界では、紀元前から優れた作品を模倣し、それを超えることを目標にアーティストたちは切磋琢磨していました

そしてこれらの作品をコピーとして責める人はいないと思います。なぜならこれらの作品は決して「コピー」ではなく、「オマージュ」だと考えられるからです。

「オマージュ」は模倣する作品や作者をリスペクトするという意味で用いられています。「コピー」と「オマージュ」、その違いは非常に微妙なものなのですが、長年に渡ってアーティストたちはこうして新しい作品を生み出してきました。

優れたものへの憧れは、古今東西どんな人間でも持っているものです。特に自分とは違う文化や芸術に対する羨望はいつになっても尽きるものではありません。

西洋に東洋から、特に中国の絹織物や陶器などがもたらされた歴史は非常に古く、東洋に対する憧れは、13世紀末実際に中国を訪れたヴェネツィアの商人マルコ・ポーロ(Marco Polo)によって生の中国の様子が綴られた「東方見聞録」によって、ますますエスカレートしました。

出典:Wikipedia(マルコ・ポーロ

しかし、当時中国などからもたらされたオリジナルの東洋の美術品は非常に高価でした。それゆえ「このような素晴らしいものを自分の手で作りたい!」、と思う人が生まれるのは当然の成り行きでした。

ただしここで生まれたのは完全な模倣、コピー品ではなく、中国の様式に西洋の要素を混ぜて「中国風」のものを作ることでした。

こうして生まれたのがフランス語で「中国の」という意味のchinoisに由来するシノワズリ(chinoiserie)、「中国趣味」という言葉です。

17世紀末には、陶磁器はもちろんのこと、庭園や建築、絵画のモチーフに至るまで、中国風の要素が盛り込まれた作品が生まれ、18世紀にはロココ様式と融合し、フランス宮廷などを中心に一大シノワズリブームが巻き起こります。

シノワズリの陶磁器

中国から盛んに商品がもたらされるようになるのは、ポルトガル、スペインを追随したオランダやイギリスなどの東インド会社が建てられた17世紀初頭頃です。

出典:Wikipedia(オランダ東インド会社の拠点、インドネシアのバタヴィア

「東インド」という名称であっても、交易相手はインドだけではなく、中国や日本も含まれていました。もともとアジアからの交易品は、香辛料や胡椒などのスパイス類が主流でしたが、次第にコーヒーやチョコレート、そしてお茶などの嗜好品が重要な位置を占めるようになりました。

ヨーロッパに初めてお茶がもたらされたのは1619年頃のオランダだと言われています。その後1630年頃にはオランダからイギリス、フランスに輸入され、1657年にはロンドンのコーヒーハウスで初めてお茶が市販されたと言われています。

出典:British Museum( ロンドンのコーヒーハウス、1690-1700年頃 )

17世紀後半になるとヨーロッパ各地にコーヒーハウスが出来たため、東インド会社はアジアからの磁器のカップの輸入に力を注ぎました。

お茶だけでなく、ブームに乗って大量に輸入されたお茶やコーヒー用のカップに描かれた東洋風に装飾に、ヨーロッパ中が魅了されるのにそれほど時間はかかりませんでした。

出典: http://gotheborg.com (明の万歴帝時代にヨーロッパ向けに輸出されていた中国陶器、1573-1619年頃)

またヨーロッパ中の宮廷で東洋の陶磁器や漆器、絹織物が用いられるようになりました。時はバロックからロココへと向かう過渡期、西洋の美術の流れとアジアから来た珍しいモチーフは次第に融合してゆきました。

シノワズリの影響が一番色濃く表れた分野が、陶磁器でした。一番初めに顕著な「中国趣味」の作品が制作されたオランダのデルフトです。

明の万暦帝が1620年に死去し、中国磁器のヨーロッパへの輸入が途絶えると、その模倣品の制作をするようになりました。このデルフト陶器に描かれていた文様は、「カラック磁器」と呼ばれていた中国の青花磁器でした。

出典: https://encheres.catawiki.eu (17世紀のデルフト陶器)

デルフト生まれの画家ヨハネス・フェルメールの『窓辺で手紙を読む女』にも、この時期のデルフト陶器(ファイアンス)が描かれています。

出典:Wikipedia(「窓辺で手紙を読む女」フェルメール作)
果物をのせたデルフト陶器が描かれている

17世紀初頭、東インド会社の活動が盛んだったオランダやイギリスからシノワズリの兆候が現れはじめ、17世紀半ばにはポルトガルでも見られるようになりました。

17世紀後半にはファイアンス(彩色陶磁器)のティーセットなどに、中国陶磁器の図案をそのまま真似た装飾を施すことができるようになります。

最初は中国の皿や花瓶や茶器の形状を正しく模倣していましたが、これがやがて幻想的な山水風景に蜘蛛の糸の橋をかけたり、中国人が花の日傘をさしたり、竜や鳳凰を背景に涼しげな風景など幻想郷が描かれたりと高度な装飾を施すことが可能になります。

ヨーロッパで初めて磁器を作ることに成功したドイツのマイセンやハンガリーのヘレンド、「ボーン・チャイナ」を生んだイギリスのスポードなどの窯によって、ヨーロッパ中にシノワズリ―の陶磁器が広がっていったのでした。

陶磁器以外へのシノワズリの影響

豪華な宝石や金銀装飾品同様に価値の高かった中国製の陶磁器は、実用的に使われただけではなく、部屋の装飾品としても大変重宝されていました。

16世紀には既にイタリアのメディチ家が数百点に及ぶ中国磁器をコレクションしていたと言われています。その陶磁器のコレクションをヨーロッパの王侯貴族たちは、専用の部屋を宮殿内に設けて飾っていました

イギリスの女王メアリ2世はハンプトンコート宮殿内のウォーターギャラリーに、ウィーンのシェーンブルン宮殿には18世紀の初めマリア・テレジアによって磁器装飾の間が設けられました。

またベルリンのシャルロッテンブルク宮殿も有名です。ここは17世紀末までオラニエンブルクに有った中国陶磁のコレクションをフリードリヒ1世がベルリンに移すために、18世紀初頭に新しく作った宮殿です。

このようにオランダ、ドイツ、デンマーク、フランス、オーストリアの各国の王侯貴族が中国磁器を中心とした装飾の部屋を次々と作っていきました。

バロック様式から解放され自由になったロココ様式に見られるシノワズリは陶器だけでなく他の分野にもその影響が見られます。

ルイ・ル・ヴォーはルイ14世のためにヴェルサイユ庭園に「磁器のトリアノン(Trianon de porcelaine)」という中国風のパゴダを建てます(ただし、完成後に「大理石のトリアノン」として建て替え)。このパゴダは後にヨーロッパ中のお手本となり、各国の宮殿に中国風のパゴダが建てられました。

出典:Wikipedia(ロンドンのキュー・ガーデンの中国風パゴダ

また中国風の風景や人物をモチーフとした銅版画も多数制作されました。アムステルダムの銅版画家ペーター・シェンクは「中国画とインド画」を出版、これらの銅版画が18世紀の美術工芸品へ図案を提供していたようです。

出典: https://digitalcollections.nypl.org (シノワズリの銅版画、ピーター・シェンク作)

そして、ロココ時代の画家、アントワーヌ・ヴァトーやフランソワ・ブーシェもシノワズリを題材とした作品を残しています。ブーシェは中国風の人物を配したタピスリーのための下絵なども製作しています。

出典: http://www.sothebys.com (アントワーヌ・ヴァトー)
出典:Wikipedia( フランソワ・ブーシェ)

また、18世紀のイギリスの家具師トーマス・チッペンデールはシノワズリとロココが融合したデザインの家具で人気を博しました。

中でもチッペンデールと言えば椅子。チッペンデールの竹をイメージしたシノワズリの要素をふんだんに用いた椅子は後世にも多大な影響を与え、現在でも英国アンティークチェアの代表となっています。

出典: https://eyefordesignlfd.blogspot.com/ (トーマス・チッペンデールのデザインした中国風チェア)

1770年代以降になると、写実性を重視した新古典主義が生まれ、奇抜さを凝らした中国趣味の装飾の流行は下火になります。

とはいえ、イギリス王ジョージ4世がブライトンのロイヤル・パビリオンの内装の中国工芸品のために巨額な資金をつぎ込んだ例もあり、異文化への憧れは尽きることはなく、後のジャポニズムへと続いて行くのでした。

出典: https://brightonmuseums.org.uk/royalpavilion/ (イギリス、ブライトンのロイヤル・パビリオン)

参考資料

オクスフォード西洋美術事典、講談社

Wikipedia

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